個人的な目 Newer Article 個人的な目もくじ Older Article

映画『モジュレーション』 Sat.12.Aug
 めったに映画館へ足を運ばない私を突き動かしたのが「モジュレーション」である。この映画は、エレクトロニック・ミュージックの歴史を紐解くドキュメンタリーだ。ジョン・ケージやシュトックハウゼンの実験的手法、ロバート・モーグ博士の作った革命的なシンセサイザー、そして現在のクラブシーンに至るまで、それぞれを単純に時系列に分割して並べるのではなく、過去の電子音楽が現代のミュージックシーンにどのように影響を与えているかを関連付けながら展開する。

 ウィークディだったせいもあり、館内が空いていたので中央のいい席で観ることが出来た。あまり宣伝費をかけられないという事情もあるんだろうが、告知がうまく行ってないようにも思われる。電子音楽好きな人には是非観て欲しい映画だ。

 私の後ろに座っていた「騒がしい2人組」には閉口した。この2人の男性は、時折私語を交わし、妙なタイミングで笑い声をあげるのだ。映画に出演していたミュージシャンのメッセージに共感を覚えた場面で笑いたくなる気持ちも分からないではないが、この映画は観るだけでなく「聴く映画」である。音に集中してもう少し静かに観て欲しかった。また、明らかに彼らの感覚は私のそれとズレており、彼らの笑っていた場面が私にとっても笑える場面であればそれほど気にならなかったかもしれない。

 映画には相当数の電子音楽に関わる人々が登場するが、映画終了直後にある疑問が生じた − ”なんであの偉大なアーティストが登場しないんだ? ” この映画を観た人の多くが同様な疑問を持ったことだろう。帰りしな電車の中で映画パンフレットを開いてみると、監督のイアラ・リーはこの問いにしっかり答えていた。

モジュレーションは包括的な映画ではありますが、もちろん大要でしかないのです。たった1本のこの長さのフィルムで、この題材を語り尽くすことは到底できません。(*)』

…なるほど、その通りである。膨大な素材フィルムの中で割愛したカットも相当な量になることだろう。イアラ・リー監督は、このこと − 多くの紹介できない偉大なアーティストや電子楽器に関わった人々の存在 − をちゃんと認識していたのだった。クラフトワークのメンバーの出演も期待していたのだが、彼らのポリシーを尊重するために実現できなかったそうである。

私(イアラ・リー)は、クラフトワークと、匿名性を守る彼らのマーケティング戦略を尊敬しています。彼ら自身が登場しなくても、彼らがいかに影響力を持っていたかについては指摘しています。(*)』
(*)…Modulations Official Book インタビュー記事より引用。

 パンフレットと共にサントラCDも購入した。選曲はこの映画の趣旨に沿っており、電子音楽史のメインフレームを綴るアーティストたちの曲が収められている。エレクトロニック・ミュージックに詳しい人は「なるほど」と思うだろうし、こうしたジャンルに興味を持ち始めたばかりの人にとっても充分楽しめるだろう。気持ちのいい1枚である。


 映画が終わると終電間近な時刻だった。しかし街は時刻を感じさせない明るさである。モジュレーションを公開している新宿ジョイシネマ3(地図)は、多くの映画館の立並ぶ歌舞伎町にある。歌舞伎町と言えば、近ごろニュースになっているボッタクリ風俗店のメッカでもある。映画の興奮も醒めぬまま映画館を出た私は、あらぬ方向へ歩いてしまったようで、妖しいネオンの真っ只中にいた。すかさず国籍不明のおねぃさんに声をかけられる。「おにーさん、マッサージ、どう?」…たどたどしい日本語だ。私は超早歩きになってその狭い通りを抜けると広い通りに出ることができた。スゲー恐かった。

MODULATIONS
オリジナルサウンドトラック
UPLINK RECORDS
ULR-008/\2400(税別)

Newer Article 個人的な目もくじ Older Article

遺伝子情報になぜ特許を与えるのか。ヒトゲノム計画で得られた成果は人類共通の財産のはずだ。人間の設計図が一握りの企業に利益をもたらすことには納得出来ない。たとえ特許を与えたにしろ、期限を設けるべきだ。ヒトゲノム計画は国家プロジェクトで行うべきである。